映画「ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー(’19)」親友同士のモリーとエイミーは、高校生活の全てを勉学に費やし理想通りの進路を目前に卒業を迎えようとしていた。そんな卒業前日、見下していたパーティー三昧だったイケてる同級生たちも、同様にハイレベルな進路が決まっていることを知りショックを受ける。2人は失った青春を取り戻そうと場所も知らない卒業パーティーへ乗り込むことを決意する。そんな真面目な2人の一晩の青春が詰まった傑作。
女優オリヴィア・ワイルドの監督デビュー作品、映画「ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー(’19)」は、監督、脚本、主演の全てが女性主導という作品に、たくさんの共感が集まった話題作だ。夫・俳優でコメディアンのジェイソン・サダイキスも出演していて、しっかりサポートしているのも好印象。あらすじを聞いても、映画の冒頭を観ても、頭によぎったのは映画「スーパーバット 童貞ウォーズ(’07)」のような青春おバカコメディかなと思った。ジョナ・ヒルの妹が、今作で主演を務めているビーニー・フェルドスタインなのはたまたまなのだろうかと思うくらい重なる映画ではあるけど、何だか全然違った。スーパーバット同様、この映画でもかなり笑わせてもらったけど、オリヴィア・ワイルドの繊細な表現は時折しっとりしていた。特にプールのシーンはお気に入りだ。
映画「スーパーバット 童貞ウォーズ(’07)」は大好きだけど観るたび”男子の友情ムービー”にかなり嫉妬する想いを巡らせていた。映画「ミーン・ガールズ」を観ても「女子の友情は脆いのか」と膝から崩れ落ちる想いをしてきたけど(そんなテーマだけど)、女子の友情をやっと具現化してくれたのがこの映画だなと思ったし、若者にはメッセージ性の強い作品ではないかなと思う。オリヴィアもインタビューで語っていた「親友だからこそ、あなたより私の方があなたを知っている」とい謎のマウント劇場は女子には日常である。それは時にお互いを理解する者には心地よくはあるけれど、自立しなくちゃともがく、特に思春期には誰かのためじゃなく自分のために変わらなきゃと言う。オリヴィアは、こうやって言葉に言い表せない感情や表現をスクリーンに映し出してくれる。
しばらく製作にストップがかけられてたらしいけど、理由は時代が追いついてなかったからとのこと。主人公のモリーとエイミーは日頃からお互いを褒め合い自分を卑下すると「私の親友を悪く言わないで!」と正義感たっぷりに自己肯定感を高め合う。エイミーはすでにゲイであることを家族や友人にもカミングアウトしているが、決してそのことが中心に描かれているわけではなく、カミングアウトしたティーンのその後の日常の一部を描く。初っ端からさりげなくジェンダーレスなトイレを描き出す清々しさは、不思議とそのニュートラルさを理解しやすい。Netflix「セックス・エデュケーション」を観ても思ったけど、最近の学園物のドラマを観ると自分の中で変わってくる物がある。ジェンダーやセクシャリティの思考がアップデートされていくのだ。今までにない脚本は、”時代が追いつかなかった”と言う理由がたくさん散りばめられていた。アメリカの公開は去年の2019年だったけど、日本は1年遅れの2020年の夏。コロナウイルスの影響で延期になったとかは知らないけど、このタイミングに公開されるのは非常に面白いし良いと感じる。
映画を観た帰り「オリビア・ワイルドって規格外の美人だよね」と親友の前でぼそっと言ってみたら「あなたもなれるよ」と予想外な嬉しい答えが返ってきた。たまたまだろうけど、モリーとエイミーのように自己肯定感をあげにきたのかと驚いた。「この映画は冒険映画なので思い切り楽しんでほしい。もっと他人に共感して人間の複雑さを受け入れてほしい。友達との思い出を大切にしてほしい」と監督のオリビアは語っている。本当にその全てを思える映画になるはずだ。普段は顔芸としか思ってなかった親友の豊かな表情も、いつもより愛おしく感じる夕飯になった。そう、いろんなことがアップデートされていった作品だ。
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