ドラマ『一流シェフのファミリーレストラン』は主演の魅力に救われたと思う

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30歳の誕生日をコロナで寝込んで迎えた。回復した最後の方は隔離期間が暇になってきた。こうやって一人で過ごすと、独りで居るのが得意でよかったなと今までは思ってきた。だけど、家から出られず晩酌も許されぬのなら、さすがに飽きることを実感する。こんな時はサブスクで何か観ればいいのだけど全然ノリに乗れなかったのも原因だった。観たい作品がパッと思いつかないし、出てこない。大袈裟だけどちょっとした絶望を感じていた矢先、ある題名に目が止まった。『一流シェフのファミリーレストラン』だ。友人たちに告ぐ。これからしばらく会う人たちには、この作品の話を時間を取って図々しくするつもりである。だけど、この題名はあまり言いたくない。この邦題は、ダサすぎる。一見ドキュメンタリーかと思った。

主演はアメリカ版「シェイムレス 俺たちに恥はない」のリップ・ギャラガー役で有名なジェレミー・アレン・ホワイト。彼がシーズン1からギャラガー家の長男として出演していたこの作品は、少し前にシーズン11で最終回を迎えたそうだ。同じ役を10年もしていた彼にとって、きっとその後の作品はかなりのプレッシャーなはず。イメージも茶の間にこべりついているだろうから。思えば私は彼のイメージについて深くは考えてこなかったけど、主演が彼ではなかったら絶対手をつけてなかったと思う。タイトルを認識しても「とりあえず観るか」と手を出しやすい俳優の一人である。個人的に、彼の陰陽のバランスに惹かれるものがあるのだ。

舞台はシカゴの下町のレストラン。というか、食堂。サンドイッチ専門店らしい。そこの経営をしていた主人公であるカーミーの兄マイケルが借金だらけの食堂を残して突然自殺する。カーミー自身は、元々NYの一流レストランで腕のいいシェフをしていた。賞を取るほど有名だった彼に憧れて、若手の優秀なシェフ(シドニー)が働きたがる。兄が死んだ喪失感と向き合わないまま、経営やレストランの改善に取り組んで行くのがあらすじ。そして、これが説明文のような邦題の正体である。

1話目から忙しなく話が進む。「スピード感が同じシカゴが舞台のERに似てる」ってコメントも見たけど、初期の頃のERっぽさはわからなくもない。荒っぽいカメラワークとセリフの掛け合い。無駄な説明がないまま話がすすむから、そのせっかちさも主人公のリラックスできない様子が伺える。ちなみに原題は『The Bear』だけど、主人公が小さいときのあだ名らしい。くまちゃん?らしい。そんな話してたっけ?ってくらいみんな深い話をしたがらない。そして、さっきも言ったけど、ここはただの下町の食堂。優秀なシェフが偶然か必然か集まった。カーミーはレストランを良くしようと試みるが、感化される者も変化を嫌がる者もいる。みんな厄介で自己中だ。ずっと歯がゆい思いをさせられるから、観終わるまでソワソワさせられた。

バタバタと始まる冒頭で主人公はレストランの資金調達に走り回る。自分のヴィンテージデニムをその価値も知らないバイヤーに売る場面でこのドラマは当たりだと確信した。調べてみたら、めっちゃ盛り上がってる作品だった。8月に米国で最も観られたドラマだとか。それと同じくらい邦題への文句がほとんどだった。やっぱりみんなも同じ気持ちだったのかと安心もしたけれど、町山智造が「配信だとこの作品は私が売り出すんだ!という部署や予算がないんでしょうね。」みたいなことを語っていて、それはそれで悲しかった。(私の解釈なので、記事や動画を参考にしてください。)今回は主演の魅力に救われたけど、これからも邦題のダサさが影響して名作をスルーする事故が起きることもあるのだろうな。

 

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